あの子の心臓をください

 

 

 

 

 

 

 

  

 さて。
 らぶらぶいちゃいちゃと幸せに浸りまくっている友人の分はひとまずおいておき、ユーリヤの分を作ることにした、のだが。
「……なんか指定とかないわけ?」
「ないよー。強いて言えば、ラメルの最高傑作」
「無茶言うな」
 からりと笑って、さっきまでの様相が嘘のようにユーリヤは冷たい石の上へ、用意良く持ってきた毛布を敷いてあぐらをかいている。うふふと蕩けそうな笑みに彼はため息をついた。生憎これを役得などと嘯ける気概はない。ああ恨めしい。
 いっそ心臓の形にしてやるか、と半ば本気で思った時。
 ふと思い出した。
 ————ユーリヤは。
 ユーリヤは、昔からチョコレートが好きだった。ラメルが下手くそに作ったチョコレートらしきものですら嬉し気に頬張っていた。今と同じ、蕩け落ちそうな笑顔。無垢な眼差しの熱。ラメルの汚い手を握る白い指と指。硝子を生むてのひら。幼い遊びでしかない恋の約束。口付けるようにチョコレートを含んで、あなたのしんぞうをください、と舌ったらずに言う子供。
 ラメルの幼馴染み。
「……ユーリヤ」
「うんー?」
「おまえ、昔っからあのおまじない、好きだよな」
 何故か室内の温度が氷点下になった。
 ……は? とひんやり乾いた声が背中に刺さる。何故。
「なんのはなし」
「え、いや、ほら。チョコレートは女子の心臓で出来ている、ってやつ。普通は男が言うのに、おまえは昔っから、ごっこ遊びでも言う役やってたよな」
「……そりゃ勘違いだよ」
「はあ?」
「そんな髪の毛生え揃ってない時のことなんか覚えてません。だいたい女とか男とかどっちでもいいじゃん。どっちの心臓でも、欲しいって言えば同じ意味でしょ」
「まぁなー」
 何で不機嫌なんだ、と思いつつ、湯煎で茶黒い物体を溶かす。ぐつぐつと鍋が火を吹き、甘い匂いが立ちこめる。ああチョコレートの匂いだ。甘ったるい、微かに喉の奥を刺激するような濃い匂い。ラメルはこの健康味の欠片もない匂いがとても好きだった。味よりも形よりも色よりも何よりも、この匂いが好きだった。そのおかげか何なのか、今では身体中にその香りが染み付いている。師にすら笑われるしつこさなのだ。
 ラメルは時間とチョコレートの具合を確認して、いつの間にか静かになった少女の方を見やった。長い銀の睫毛が下りて、花の色をした唇から密やかな寝息が漏れている。職人が魂を込めて染めた絹糸のような灰の髪は一筋二筋、彼女の頬を伝って柔かな影を作る。痩せた身体の印象を裏切るような傷だらけの腕。包帯の絶えないその白い腕が、如何程の努力を積んでいるか。彼は知っている。ずっと見てきた。ずっと、ずぅっと。観てきたのだ。
 ユーリヤの瞳のように妖精じみた、眼を離せば溶け消えてしまうような繊細な硝子細工に込められた深い愛情を、彼はきっと、彼女自身よりも知っている。
 長く寝ていないのだろう、よく見ると少々青ざめた面差しはやつれ、くっきりと出来た隈が痛々しい。
 ユーリヤ、と彼はちいさく呼びかけた。
 ユーリヤ、もう少し。
 もう少し、ここで眠っているんだ。ユーリヤ。
 
 
 
「……で、出来た……」
 無我夢中で作っていたらなんと恐ろしいことに日が暮れていた。力とか気合いとかそういうなんやかやを入れ過ぎて妙に細かく精巧に上手く出来てしまったがそれに費やした労力とその使用目的を思うと何かが激しく間違っている気がしてならない。おかしい。何故だ。何故こんながつがつ作ってしまったんだ自分。なんか指ぴくぴくするし。
「……う、わあ」
 がっくり膝をついて気を抜いていたら、後ろから惚けたような声が届いた。はっと我に返る。おっとっと。
 ラメルは取り繕うような客寄せ笑顔で、幼馴染みに問いかけた。
「これでいいか、お客様?」
「……や、ていうかむしろ、こんな凝りまくったの、貰ってっていいわけ? なんかすっごい罪悪感あるよ」
 きらきらと金粉が細やかにまぶされた王冠部分は銀色の飴細工が煌めいて宝石のよう。葉を蔓を伸ばす花々は蕩けそうな薔薇だ。食紅を七色に使いわけ、中央で眠る少女の姿とその小女の脇から突き出した小瓶はそれこそ硝子細工のようだった。薄く限界まで伸ばされたチョコレートの瓶の中には文字が刻まれた手紙。
 ラメルは思った。————何これ。
 いかにも少女趣味かつ無駄に細かい。なんというか、巷で年頃の娘さん方に好まれそうな型である。
「……悪いな。これ、男にあげるんだろ?」
「え、いや、そうじゃなくて。なんか申し訳ないなぁって。だって、すっごい可愛いよ」
 微かに頬を染めて言われた言葉が、すとんと胸に落ちてくる。
 ラメルは、酷いな、と思った。ほんの、少し。
 心臓が重く、痛い。ばらばらに、腐り落ちるチョコレートのようだった。……ああ。
 なるほど、チョコレートが心臓で出来ているなんて。中々上手い言伝えだ。
 ラメルはとても緩慢に腕を伸ばして、石台を新しい布で吹いた。ゆっくりと。色とりどりの食紅がそこかしこに散らばって、少しばかり目に痛い。ずらりと居並ぶ瓶それぞれに、間違えないよう蓋をして、ラメルは笑った。
「いいよ。今度、瓶を作ってくれるんだろ?」
 そう。そういう、約束だった。ラメルがチョコレートを作る代わりに、ユーリヤはとびきりの硝子瓶を作る。古式ゆかしい物々交換だ。
 だから、これでいい。今直ぐこのチョコレートを叩き壊してしまいたいなどと思ってはいけない。
「……本当にいいの?」
 戸惑った顔で、彼女は呟く。未だ不安そうな眼差し。だけど分かる。無意識に伸ばされた指が、黒いオブジェを欲しがっている。
 なんて嬉しいことだろうか。
「いいって言ってるだろ。早く告白しにいけよ。そんでさっさと成就させてこい」
 胸が軋むようだ。
——————え」
 けれどそんなラメルの胸中とは逆巻きに、ユーリヤは硬直した。ラメルは瞬いた。なんだなんだその反応。
「え、って、え?」
「……あ、あのさ。折角、こんなすごいの、作ってくれたのに、悪いんだけど」
「……うん?」
「……私、成就、はしないんだよね」
 ラメルは沈黙した。……うん?
「え、でも、おまじない、だろ?」
「ていうより、最後の思い出というか。幸せげな言伝えと慣習に、あやかってみようかなぁ、なんて。思ったり」
 最後の思い出。
 ラメルは地雷を踏んでみた。
「……振られにいくの?」
「うるさい!」
 踏んでからさすがにまずかったかと反省しつつも、ラメルは非常に微妙な気持ちになった。悪い悪い、と謝りながらそれでも包装する。くるくるとリボンを巻き、鋏でくねらせ、最後にピシッと形を整える。
 振り向く。
 ユーリヤは俯いていた。
 諦めた表情で、手を後ろに組んでいる。
 その姿を見た瞬間、ラメルは雷撃に打たれたような気分になった。それまでの交々極まる微妙な感情その他全てが全て吹っ飛んでいく。
 意味が分からないくらいに、苦しかった。
 頭ひとつ分小さい幼馴染みの首に腕を回す。驚いたように仰向く彼女を見ないようにして、緩く抱き寄せる。肩の辺りのユーリヤの額がぶつかった。ラメルは強烈に、泣きたくなった。
「ユーリヤ」
「……う、ん。なに」
「落とすなよ。————最高傑作、だ」
 今のな、と密やかに微笑う。細い肩が震えた。ラメルは空いたてのひらで、宥めるようにその背を叩いた。
 一瞬の後、ユーリヤがばっと腕を突っ張ってラメルから離れる。唇を噛み締めて、けれど彼女は笑った。
「……あのね」
「ああ」
「チョコレート、大好きなヤツなんだよ」
「うん」
「だから、それ以外、興味がないの。ほとんど」
「……うん」
「人嫌いって、いうんじゃないよ。でも、ずっと、いちばんは、チョコレートなんだ」
「……そうか」
 チョコレート職人なのだろうか、とふと思った。それぐらい好きで、恐らくこの街の人間なら、まずそうなんではなかろうか。聞きたいとは思わないが。
「……ラメル」
「なんだ」
「私、馬鹿?」
「いんや。阿呆だ」
「あは。……まったく、酷いなぁもう」
 ありがとう、とユーリヤは呟いた。囁いた。涙みたいな声で。
「ありがとう。だいすき」
 
 それこそ残酷だ、と、けれどラメルは言わなかった。
 
 
 
 
 ごん、と鈍い音が地下室に反響した。
 ユーリヤはとっくに出ていった。今から玉砕しに行ったのだろう。だから今はラメル一人だ。
 ぺろり、とチョコレートのついた指を舐める。カカオというよりダークチョコレートの味。苦い。
 苦い。
「……あいつ、ほんっと酷いよな」
 石台に落ちた、板状に固まったチョコレートを拾う。大して重量もない筈のそれが、どうしてか重たく感じた。
 
『だいすき』
 
 反響する。
 鳴り響く。
 頭の中で、涙に濡れた甘い声が。
 ……大した言葉ではない筈だ。昔から、何気なく、深い意味もなく繰り返されてきた言葉の筈だ。彼女が恋する相手に向けるような複雑な想いなど欠片もなく、ただ軽やかで、ほんの少し胸を穏やかにする、挨拶のようなものの筈だ。当然だ。大した、ことではない。大したことでは、
 大したことではない筈なのに。
 なのに、その言葉をぐちゃぐちゃに引き裂いて叩き潰したいくらいの気持ちになる。痛い。ああ、チョコレートの心臓が砕け散る。ああ。
 そうだとも。
 彼は認めた。ずっと知っていて、けれどずっとドアの外においておいた感情が、こんなに経っても消えないものなのだと認めた。
 ああ、彼は、ユーリヤが好きなのだ。
 ありったけのチョコレートを贈って心臓をねだりたくなるほどに。彼女のことが、好きなのだ。
 ドューナ・ノテに古くから伝わる嘘物くさいおまじない。神様が想いを成就させた証。
 ここではチョコレートとともに相手の心臓を欲しいと願えば、恋が叶う。だから。たとえ役柄が反対だったとしても、彼は幼馴染みの恋は幸せなものであると思っていた。
  けれど、なのに、これは一体どういうことだ。
 この想いが叶わないならばせめて彼女の想いは叶って欲しかった。珍しくも必死に頼ってきた彼女に報いたかった。望むのなら全力で作ってやりたかった。そうして。
 そうして、そのおかげで笑ってくれるのなら、きっと楽になれると思ったのに。
 ナートュル(神よ)、何故だ。そうすれば恋は叶うのじゃなかったのか。想いは実るのではなかったのか。何故彼女の想いが叶わない。それならあのチョコレートは何になる。そうしてあの子は今日、ひとりで落ち込むのか。嘆くのか。それともすっきりしたと嘯いて、笑うふりして泣くのだろうか。ああ。ナートュル。あなたの心臓をください。それは優しい幸せのおまじないじゃなかったのか。失恋する為の言葉なのか。どうして。それなら。それならいっそ俺にあの子の——————
 
 
 
 
 
 あの子の心臓をください。
 
 
 
 
 
「…………っ!」
 ガタン、と石台に寄りかかる。口許を押さえる。血の気が引いた。何を。何を、言っているのだ自分は。馬鹿じゃないのか。そんな。
 あんなに馬鹿にしきっていたのに。
 こんな時だけ使えもしない神にすがるのか。
 ラメルは板状のチョコレートを透明な袋に無造作に放り込んだ。適当にリボンで封をし、コートをとってポケットに入れ、そのまま地下室から飛び出す。階段を飛ばし飛ばしに上がって、鍵もかけずに家を出た。雪。全面埋め尽くすみたいな雪が降っている。なんてことだ。地下室にこもりっきりなせいで、こんなに雪深くなっていることにも気付いていなかったらしい。だがそれも今はどうでもいい。まろぶように走って、走って、走って。叫ぶ。
「ユーリヤ!」
 どこだ。どこだ、どこにいる。ユーリヤが好きなもの。ユーリヤが好きな何か。ユーリヤが、——落ち込む為に、選ぶ場所。
「……教会……?」
 呟いた時には、無意識に足が向かっていた。壮麗な、どこか古びた教会のステンドグラスは、もうずっと傷だらけのままだ。けれど昔彼女が見蕩れた美しさは変わらない。冬の空に色の光を映すような、鮮やかな硝子の窓。
 静かに中を見回し、彼女の姿が見えないことに肩を落として、中庭に出る。春になれば明るく賑やかな花壇も中庭も、今は雪に埋もれて真っ白だった。見当違いだったか、とため息をつく。そのまま中庭を突っ切ってしまおうとして。
 ラメルは瞠目した。
————ユーリヤ!」
 背の高い花壇の上に座って、ユーリヤは項垂れるように俯いていた。
 その両腕の中にはやはり、先程包装したばかりのチョコレートがあって。
 ……ラメルは泣きたくなった。
「ユーリヤ」
 緩慢に彼女の睫毛が瞬き、ゆっくりと面が上がる。眼が、合った。
「……ラメル? なんで」
「……、……それ」
 ユーリヤの問いには答えなかった。代わりに一歩分の距離しかないくらいまで近づく。
「渡さなかったのか」
 分かり切ったことを、聞いた。ユーリヤはぼうっとラメルを見て、困ったように微笑う。ううん、渡せなかった。緩やかに彼女は言った。ラメルは黙った。白い息だけが漂う。息が、苦しかった。呼吸もままならない。
 寒い。
「……ユーリヤ」
「うん?」
「振られたのか」
「……そういうこと、聞かないで欲しい、なぁ」
「……そうだな」
 両手を伸ばす。いつもの朗らかさの欠片もない笑顔が苛立った。そうっと。ユーリヤの耳の後ろに指をやって、顔を上向かせる。こつ、と額をぶつけた。小さい頃、よくやっていた仕草。
「ラメ、」
「“あなたの心臓をください”」
 ユーリヤの呼吸が止まった。
 妖精めいた、瞳が赤の金の眼が見開かれる。
 硝子細工のように、美しい、金の。
 片手をするりとユーリヤの耳の後ろから引き、ポケットからチョコレートの袋を引っ張り出す。
 微笑う。
「ほら、」
 大きなチョコレートの箱の上に、いかにも安っぽい透明な袋を落としてやる。のろのろと、ユーリヤはそれを見下ろした。壊れ物に触るみたいに、ちっぽけな袋を手に取る。
「……なん、で」
「うん」
「……答えに、なってない」
「答えるつもり、ないからな」
「……これで落ち込みの帳消しだ、とかほざきやがったら殴るよ」
「言わねぇよ。怖ぇな」
「……だからさ、」
「うん?」
「……何の、つもり。こういう優しさは、とてつもなく苛立たしいんだけど」
 泣きそうな顔でユーリヤは睨んできた。……やめて、と。懇願するような眼差し。ラメルは困った。困って、それからまた、ただ笑う。
「ユーリヤの恋が叶わないなら、俺にくれ、って思ったんだよ」
 ユーリヤの、心臓を。
 金の眼が不可解の色を宿す。それでもなお綺麗な眼。
 ユーリヤ、と寒さで赤くなった耳に囁く。
「ユーリヤ。俺は、ユーリヤが好きだよ」
 ユーリヤの手から、チョコレート入りの透明袋が落っこちた。
 
 
 
「あ、おい。折角やったんだから落とすなよ」
 茫然とユーリヤが落とした袋を拾い上げる。ほら、ともう一回膝に落としてやる。と。
 くい、と酷く弱い力で、手首を掴まれた。
「……ラメル、それ、ほんと?」
「え? ————ああ、本当」
「……っ」
 ぎゅう、と手首を掴む力が強まる。ユーリヤは俯いた。ラメルは苦笑して、彼女の頭を撫ぜた。もういいよ、と言うように。もういいよ。今日言ったのは、おまえの傷に少しは良いものが上塗り出来ればと思ったからだ。どうしようもない衝動で、言いにきてしまっただけなんだから。だから、今無理に返事しようなんて考えなくて良い。そう、言おうと口を開いて。
「ラメル、これ、あげる」
 丹精込めて作り上げた大きなチョコレートの箱を渡された。
 ついうっかり受け取ってしまってから、はっと正気に戻る。
「え、いや、いやいやいや。何これ? これ俺が作ったやつだよな?」
「うん」
「いや『うん』じゃなくて。いらねぇよ。てか、貰うくらいしてもらってこい」
「うん、だから」
「だから、っていや俺にじゃなくて」
——————けじめが、欲しかった」
 遮るようにユーリヤが言う。ぎゅっとラメルの手を握りしめたまま。彼は唾を呑み込んだ。
「無理だって、思ってたし。だから、せめて、終らせたかった。すっきり、ってくらい。終らせるなら、思い出が。けじめが。————ラメルの、チョコレートが欲しかった。私の、為に。ラメルが作って、私に、渡してくれる、チョコレートが、欲しかった」
 ラメルは瞬きも出来なかった。それは。
 それは、一体、どういう意味だ。
「ねぇ、ラメル。あげるよ」
「……何を」
「私の心臓」
 笑う。
 妖精じみた少女が、雪を溶かすような笑みを閃かせる。
「だから、私にラメルの心臓、ちょうだい」
 心底、幸福そうに。
 
 
 
 
 
 
 つまり、だ。
 つまり、彼女の好きな相手っていうのは、ラメルのことであったらしい。
 つまり何より何よりチョコレートを愛しているのも、ラメルってことだ。
————ってちょっと待て。俺は別に恋人はチョコレートなんて言ったことないぞ」
「でもチョコレートバカだし」
「それ言ったらおまえだって硝子バカだろ」
「それはそれ、これはこれ」
 憎たらしい娘である。
 ラメルはユーリヤの頭を抱き寄せて暖を取りつつ、ため息をついた。
 結局、ラメルのチョコレートは両方ともユーリヤのものになった。なんとなく損な気がするのは気のせいだろうか。いや、うん、気のせいだ気のせい。
「ていうかユーリヤ告白してなくないか」
「……したよ」
「ええ?」
「言ったじゃん。ラメルの家から出る時」
「……? …………、……………って、アレか?!」
 つい叫ぶとユーリヤはぐいぐいと額を押し付けてきた。寒さでなく、耳が真っ赤に染まっている。
 ラメルは破顔した。
——————もう一回」
 灰色の髪をかきあげて囁くように願えば、ユーリヤが真っ赤な顔で眼を泳がせる。けれど、焦れるような数拍後、酷く小さな声で呟いた。その甘い響きに蕩け落ちそうになる。うん、と返すように呟いて、ラメルは白い額に口付けた。
 
 
 
 それからラメルがすっかり忘れていた友人のチョコレート作りに大慌てになるのは、数時間後のことである。
 


 
 

 

 

  

 

 

 lyric note さまの「みんなでお題を消化しよう」の企画に参加させていただきました。ありがとうございましたー!

 

 

 

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