眠れぬ魚たち
水の中で息をするのはとても難しい。昔、知人が水かきのある手で頭をかきむしりながら、そんなことを言っていた。なるほど、それは陸でおいても言える。少なくとも、わたしにとってはそうだった。冬の夜空の、きんと冷えきった壮絶な美しさに見蕩れながら、わたしはぱきんとクッキーを噛んだ。一枚ちょうだい、とリシュリューが言うので、分けてやる。それから、そういえば、と彼は続けた。視線で促すと、そういえば聞いてなかったけれど、と彼は微笑んだ。きみは、僕でいいの、と。わたしは瞬き、首を傾げた。つまり、キスをする相手ということ? わたしの問いにそうそうと彼は頷いた。今更過ぎる質問だ。そりゃわたしは良いけれど。リシュリューって、わたしのこと、好きなの? 素朴な疑問を投げかけると、彼は、うーんと悩み出した。好きというより、愛している、という方が正しい。執着でも、恋着でも良いけれど。わたしにはいまいちその差が分からない。あたたかいチョコレートを飲みながら、クッキーがなくなったので、菫とオレンジの砂糖漬けを食べる。寒さを燃やすほど甘い。よく分からないけど、じゃあ、わたしでいいのね。確認すると、彼はやはりうつくしい顔を幸福そうに緩めた。もちろん。真っすぐにわたしを見ている。目が合った。瞼が熱い。リシュリューがわたしの名を呼ぶ。僕はきみがいい、サフィニア。
わたしは微笑った。
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