朝食は散々だった。 甲斐甲斐しくというより鬱陶しく世話を焼かれ、リディアンヌはげっそりしながら屋敷を抜け出した。食事中、給仕と家令が気味悪そうにオルレアンを見てはリディアンヌに問うような視線を寄越したが、慎ましく無視した。 向かう先はアニエスの家である。枝を伸ばす木々をかいくぐり、弱々しく扉を叩く。いつもはなかなか開けてくれないアニエスは、なぜか今日に限って一度のノックで招き入れてくれた。ここからして、もうすでに嫌な予感でいっぱいである。 「薬の効き目があったんだね?」 ニヤァ……と笑ってからかうように魔女が当てる。リディアンヌは情けない顔になった。 「アニエス、おかしいわ。あれって本当に媚薬なんですの?」 「そらそうだよ、対価はもらったからね、ちゃんと作ったよ」 「でも、なんだか、なんだか、――――ただの世話焼きさんになっちゃいました!」 ふーん? とアニエスは面白そうに瞬いた。真面目な顔を作ろうしているようだが、唇の端がぴくぴくしている。おそらく、大笑いしたいのだろう。 「あのね、媚薬っていうのは相手を惚れさせる薬だよ。性格を変える薬じゃないわけ」 「……えぇと、つまり?」 「あんたが見た伯爵が、やつの恋してる状態ってこと」 リディアンヌはがっくりとうなだれた。確かに、人の恋の仕方はそれぞれだろうけれど、でも、やっぱり予想外だ。 「どうすればいいんでしょう……」 「どうもしなくていいんじゃない?」 さらりと言って、アニエスはぱちんと指を鳴らした。お茶のセットが降ってくる。がちゃんがちゃんかちゃん、と今にも割れそうな音を立てて、ソーサーの上にカップが乗り、浮かんだままのポッドから紅茶が注がれた。浮き出た湯気から甘い匂いが漂い、最後に角砂糖がぼちゃんと落ちた。 「まあ、様子を見てみれば? もともと無害な男だし、意外とうまくいくかもよ」 |